神奈川県立こども医療センター出生前診断カンファレンス
胎児診断に基づく
集中治療と家族支援
定価 6,600円(税込) (本体6,000円+税)
- B5判 264ページ 2色(一部カラー),イラスト20点,写真75点
- 2023年10月1日刊行
- ISBN978-4-7583-2134-1
電子版
序文
巻頭言
『胎児診断に基づく集中治療と家族支援』
神奈川県立こども医療センターでは,1992年の周産期センター開設後徐々に胎児診断症例が増加し,毎週定期的に「胎児カンファレンス」を行ってきました。その中心的役割を担ってきた川瀧医師,大山医師の定年退職を機に,本書『胎児診断に基づく集中治療と家族支援』を上梓することとなりました。
胎児診断の課題は,その不確実性と考えます。疾患にもよりますが,出生後の診断と比べてどうしても残るその不確実性を産婦人科と新生児科,関連他科でできるだけ絞り込み,出生後の治療方針を決めて,どのように両親に話すかを相談するのが胎児カンファレンスの最大の目的かと思います。看護スタッフから両親の情報を聞くことで,話す内容と範囲が変わることもあります。また,推測される出生後の経過を産婦人科と共有することにより,分娩方法も検討できます。胎児診断された患者は,担当医師が産婦人科,新生児科,小児科または小児外科と替わり,担当看護師も産婦人科病棟,NICU,小児病棟または小児外科病棟と替わります。両親に一貫した説明を行い,信頼を得るために,胎児期から産婦人科医師と新生児科医師が同席して説明することがとても重要と考えています。
胎児期の説明は,出産前の両親にとってまだ見ぬ我が子の説明であり,想像しがたい経験です。両親の理解の確認をしながら必要に応じて何度も説明することもあり,状況によっては異常がない部位の情報を伝えることも必要です。
この書籍が,経験少ない胎児診断症例の説明に臨む若い医師の一助となれば幸いです。
2023年8月
前 神奈川県立こども医療センター 病院長
聖マリアクリニック本院 小児科
猪谷泰史
---------------------------
序 文
定年退職を前に,豊島先生から,これまでに蓄積した知識経験を形にして残してほしいとの依頼をいただきました。まったくの手探りで始めた胎児診断と胎児診断に基づく周産期医療の我々の試みを,30年後の今,まとまった書籍の形で提示できることは,わたくしにとって大きな喜びです。
振り返ってみると,医師人生の3/4を過ごさせていただいた周産期医療は,わたくしにとってかけがえのない経験の連続でした。この本を読んでいただく読者のために,表面には出てこない個人的な背景をこの序文で触れたいと思います。
いったん時計の針を33年前に戻します。
秋田から小児循環器学を学ぶために,神奈川県立こども医療センターに来て4年近くが経過していました。家族とともに秋田に戻る準備をしていたある夏の日に,当時の新生児科部長で,恩師の後藤彰子先生から,新生児科のスタッフに誘われました。2年後に迫っていた周産期センター発足にあたり,「循環器疾患の新生児診療と胎児診断を担当してほしい」といわれました。それが,わたくしと胎児診断の初めての出会いでした。そこから月1回,東京女子医科大学附属病院の胎児心エコー外来を担当させていただき,胎児心エコーの腕を磨きました。
1992年10月1日,日本初の小児病院に併設された周産期センターがスタートしました。自分自身の胎児診断のスキルを磨くことと並行して,家族支援,出生直後の治療の準備,そして,新生児蘇生や術前術後管理など,すべてが初めての経験でした。1例1例経験を重ねながら,少しずつチーム医療の形を整えていきました。
1998年,胎児診断の技術とシステムを学ぶために,胎児診断の先進国であったカナダ,イギリスなどに3か月間派遣していただきました。当時の日本ではまだ胎児診断されていなかった,TGA(完全大血管転位症)がごく当たり前に胎児診断されている光景にカルチャーショックを受けました。そして,帰国後,県内のすべての産科施設を繰り返し訪問し,産科の先生方と胎児診断技術を共有しました。その後,急激に紹介されてくる胎児診断症例が増加しました。胎児診断率の向上に一緒に努力していただいた産科の先生方に心から感謝しています。
この本の中に流れている患者中心の医療の考え方は,約50年前に日本で2番目の小児病院を立ち上げたときからの一貫した考え方でした。恩師の後藤先生から,折に触れてその考え方を受け継がせていただきました。そして今,豊島先生を中心とした現在のスタッフにバトンを無事に渡すことができたことを,何よりもうれしく思っています。
周産期施設がリニューアルし,潤沢なスタッフを整えることができました。この書籍で語られている周産期医療は,このような施設やスタッフがなければ実践できないものでしょうか。私はそうではないと思います。この本を読んでいただく読者の方々には,この本の奥に流れているスピリッツを読み取っていただき,各施設の実情に合わせて応用していただきたいと願っています。
2023年8月
神奈川県立こども医療センター 新生児科
川瀧元良
---------------------------
序 文
私は新生児科医になる前の2年間小児病理の研修で,特に胎盤病理に興味をもっていました。その後,当院での胎児カンファレンスの場で,胎児と胎盤が映し出される超音波を見て,私は,これまで打ち上げられた海藻とその干物のような状態の胎盤しか見ていなかったのだと知りました。そして,胎児と胎盤は一体で検索されるべきものとの思いは強くなりました。
胎児カンファレンスの情報が蓄積されるにつれ,1986年初版から版を重ねてきたこども医療センターの『新生児診療マニュアル』と並行して,胎児診断マニュアルをつくって自施設のみならず他施設の方にも役立てていただきたい思いが募りました。
この度,その思いが叶いました。作成に尽力していただいた皆様に感謝するとともに,“兄(あに)”の『新生児診療マニュアル』のように版を重ねていただけることを期待して。
2023年8月
神奈川県立こども医療センター 新生児科
大山牧子
『胎児診断に基づく集中治療と家族支援』
神奈川県立こども医療センターでは,1992年の周産期センター開設後徐々に胎児診断症例が増加し,毎週定期的に「胎児カンファレンス」を行ってきました。その中心的役割を担ってきた川瀧医師,大山医師の定年退職を機に,本書『胎児診断に基づく集中治療と家族支援』を上梓することとなりました。
胎児診断の課題は,その不確実性と考えます。疾患にもよりますが,出生後の診断と比べてどうしても残るその不確実性を産婦人科と新生児科,関連他科でできるだけ絞り込み,出生後の治療方針を決めて,どのように両親に話すかを相談するのが胎児カンファレンスの最大の目的かと思います。看護スタッフから両親の情報を聞くことで,話す内容と範囲が変わることもあります。また,推測される出生後の経過を産婦人科と共有することにより,分娩方法も検討できます。胎児診断された患者は,担当医師が産婦人科,新生児科,小児科または小児外科と替わり,担当看護師も産婦人科病棟,NICU,小児病棟または小児外科病棟と替わります。両親に一貫した説明を行い,信頼を得るために,胎児期から産婦人科医師と新生児科医師が同席して説明することがとても重要と考えています。
胎児期の説明は,出産前の両親にとってまだ見ぬ我が子の説明であり,想像しがたい経験です。両親の理解の確認をしながら必要に応じて何度も説明することもあり,状況によっては異常がない部位の情報を伝えることも必要です。
この書籍が,経験少ない胎児診断症例の説明に臨む若い医師の一助となれば幸いです。
2023年8月
前 神奈川県立こども医療センター 病院長
聖マリアクリニック本院 小児科
猪谷泰史
---------------------------
序 文
定年退職を前に,豊島先生から,これまでに蓄積した知識経験を形にして残してほしいとの依頼をいただきました。まったくの手探りで始めた胎児診断と胎児診断に基づく周産期医療の我々の試みを,30年後の今,まとまった書籍の形で提示できることは,わたくしにとって大きな喜びです。
振り返ってみると,医師人生の3/4を過ごさせていただいた周産期医療は,わたくしにとってかけがえのない経験の連続でした。この本を読んでいただく読者のために,表面には出てこない個人的な背景をこの序文で触れたいと思います。
いったん時計の針を33年前に戻します。
秋田から小児循環器学を学ぶために,神奈川県立こども医療センターに来て4年近くが経過していました。家族とともに秋田に戻る準備をしていたある夏の日に,当時の新生児科部長で,恩師の後藤彰子先生から,新生児科のスタッフに誘われました。2年後に迫っていた周産期センター発足にあたり,「循環器疾患の新生児診療と胎児診断を担当してほしい」といわれました。それが,わたくしと胎児診断の初めての出会いでした。そこから月1回,東京女子医科大学附属病院の胎児心エコー外来を担当させていただき,胎児心エコーの腕を磨きました。
1992年10月1日,日本初の小児病院に併設された周産期センターがスタートしました。自分自身の胎児診断のスキルを磨くことと並行して,家族支援,出生直後の治療の準備,そして,新生児蘇生や術前術後管理など,すべてが初めての経験でした。1例1例経験を重ねながら,少しずつチーム医療の形を整えていきました。
1998年,胎児診断の技術とシステムを学ぶために,胎児診断の先進国であったカナダ,イギリスなどに3か月間派遣していただきました。当時の日本ではまだ胎児診断されていなかった,TGA(完全大血管転位症)がごく当たり前に胎児診断されている光景にカルチャーショックを受けました。そして,帰国後,県内のすべての産科施設を繰り返し訪問し,産科の先生方と胎児診断技術を共有しました。その後,急激に紹介されてくる胎児診断症例が増加しました。胎児診断率の向上に一緒に努力していただいた産科の先生方に心から感謝しています。
この本の中に流れている患者中心の医療の考え方は,約50年前に日本で2番目の小児病院を立ち上げたときからの一貫した考え方でした。恩師の後藤先生から,折に触れてその考え方を受け継がせていただきました。そして今,豊島先生を中心とした現在のスタッフにバトンを無事に渡すことができたことを,何よりもうれしく思っています。
周産期施設がリニューアルし,潤沢なスタッフを整えることができました。この書籍で語られている周産期医療は,このような施設やスタッフがなければ実践できないものでしょうか。私はそうではないと思います。この本を読んでいただく読者の方々には,この本の奥に流れているスピリッツを読み取っていただき,各施設の実情に合わせて応用していただきたいと願っています。
2023年8月
神奈川県立こども医療センター 新生児科
川瀧元良
---------------------------
序 文
私は新生児科医になる前の2年間小児病理の研修で,特に胎盤病理に興味をもっていました。その後,当院での胎児カンファレンスの場で,胎児と胎盤が映し出される超音波を見て,私は,これまで打ち上げられた海藻とその干物のような状態の胎盤しか見ていなかったのだと知りました。そして,胎児と胎盤は一体で検索されるべきものとの思いは強くなりました。
胎児カンファレンスの情報が蓄積されるにつれ,1986年初版から版を重ねてきたこども医療センターの『新生児診療マニュアル』と並行して,胎児診断マニュアルをつくって自施設のみならず他施設の方にも役立てていただきたい思いが募りました。
この度,その思いが叶いました。作成に尽力していただいた皆様に感謝するとともに,“兄(あに)”の『新生児診療マニュアル』のように版を重ねていただけることを期待して。
2023年8月
神奈川県立こども医療センター 新生児科
大山牧子
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目次
PART I 神奈川県立こども医療センターと胎児診断
1. 施設の特色
施設概要と特色:神奈川県立こども医療センター,総合周産期医療センター,周産期医療部門,新生児科(NICU)
2. 胎児診断の変遷
当院における胎児診断の変遷
3. 胎児診断:紹介から治療,フォローアップまで(概要)
胎児診断:紹介から治療,フォローアップまで(概要)
PART II 神奈川県立こども医療センターの胎児診断:胎児カンファレンス
1. 神奈川県立こども医療センターの胎児カンファレンス
胎児カンファレンスの概要
2. 神奈川県立こども医療センターの視点:胎児カンファレンスを織りなす要素
1)小児病院における産科管理
2)新生児集中治療を効果的に開始するための胎児診断
3)胎児カンファレンスにおける多科・多職種の連携
4)ファミリーセンタードケア
5)胎児診断に基づく緩和ケアとアドバンス・ケア・プランニング
6)胎児診断から始まる高度な集中治療と地域生活支援医療との結びつき
3. 医療者間の総意形成
創作ドキュメント 多科・多職種 胎児カンファレンス
4. 患児家族との共同意思決定
家族への説明,コミュニケーション
PART III 胎児診断と治療・ケア:カンファレンスと医療の実際
神奈川県立こども医療センターの出生前診断と医療
1.胎児診断から予想された超低出生体重児 ― 出生前訪問から始まる新生児医療
2 . 羊水の異常:過多・過少
3 . 胎児胸水 ―乳び胸水を中心に
4 . 先天性心疾患
1)総論
2)内臓心房錯位症候群
3)左心低形成症候群
4)出生直後に手術やカテーテル治療を要する先天性心疾患
5)胎児不整脈
5 . 先天性横隔膜ヘルニア(CDH)
6 . 先天性消化管疾患
1)先天性消化管閉鎖
2)その他の消化管関連疾患
7 . 胎児染色体異常 18トリソミー
8 . 二分脊椎・脊髄髄膜瘤
9 . 先天性水頭症
10 . 先天性腎尿路疾患
11 . 仙尾部奇形腫
12 . 胎児診断された口唇口蓋裂
【column】
PART Ⅱ
胎児のよりよい誕生日 〜新生児科が考える分娩方針のこと〜
出生直後の早期母子接触(skin-to-skin contact:STS)
長期入院やNICU での緩和ケア 〜ファシリティドッグとハンドラーのこと〜
母の母性病棟入院中の死産や新生児死亡後の家族同室ケア
かながわ医療的ケア児支援センター
PART Ⅲ
ときめきのホルモン 〜オキシトシンの話〜
先天性筋強直性ジストロフィー
Chronic abruption-oligohydramnios sequence(CAOS)
右側相同,左側相同とは
Ricardo Ivan Rodriguez Araya
気道狭窄性疾患の胎児診断の難しさと重要性
家族同室から在宅医療移行
頭蓋骨早期癒合症と気管の奇形
早産出生の巨大仙尾部奇形腫に対する当院での治療変遷
1. 施設の特色
施設概要と特色:神奈川県立こども医療センター,総合周産期医療センター,周産期医療部門,新生児科(NICU)
2. 胎児診断の変遷
当院における胎児診断の変遷
3. 胎児診断:紹介から治療,フォローアップまで(概要)
胎児診断:紹介から治療,フォローアップまで(概要)
PART II 神奈川県立こども医療センターの胎児診断:胎児カンファレンス
1. 神奈川県立こども医療センターの胎児カンファレンス
胎児カンファレンスの概要
2. 神奈川県立こども医療センターの視点:胎児カンファレンスを織りなす要素
1)小児病院における産科管理
2)新生児集中治療を効果的に開始するための胎児診断
3)胎児カンファレンスにおける多科・多職種の連携
4)ファミリーセンタードケア
5)胎児診断に基づく緩和ケアとアドバンス・ケア・プランニング
6)胎児診断から始まる高度な集中治療と地域生活支援医療との結びつき
3. 医療者間の総意形成
創作ドキュメント 多科・多職種 胎児カンファレンス
4. 患児家族との共同意思決定
家族への説明,コミュニケーション
PART III 胎児診断と治療・ケア:カンファレンスと医療の実際
神奈川県立こども医療センターの出生前診断と医療
1.胎児診断から予想された超低出生体重児 ― 出生前訪問から始まる新生児医療
2 . 羊水の異常:過多・過少
3 . 胎児胸水 ―乳び胸水を中心に
4 . 先天性心疾患
1)総論
2)内臓心房錯位症候群
3)左心低形成症候群
4)出生直後に手術やカテーテル治療を要する先天性心疾患
5)胎児不整脈
5 . 先天性横隔膜ヘルニア(CDH)
6 . 先天性消化管疾患
1)先天性消化管閉鎖
2)その他の消化管関連疾患
7 . 胎児染色体異常 18トリソミー
8 . 二分脊椎・脊髄髄膜瘤
9 . 先天性水頭症
10 . 先天性腎尿路疾患
11 . 仙尾部奇形腫
12 . 胎児診断された口唇口蓋裂
【column】
PART Ⅱ
胎児のよりよい誕生日 〜新生児科が考える分娩方針のこと〜
出生直後の早期母子接触(skin-to-skin contact:STS)
長期入院やNICU での緩和ケア 〜ファシリティドッグとハンドラーのこと〜
母の母性病棟入院中の死産や新生児死亡後の家族同室ケア
かながわ医療的ケア児支援センター
PART Ⅲ
ときめきのホルモン 〜オキシトシンの話〜
先天性筋強直性ジストロフィー
Chronic abruption-oligohydramnios sequence(CAOS)
右側相同,左側相同とは
Ricardo Ivan Rodriguez Araya
気道狭窄性疾患の胎児診断の難しさと重要性
家族同室から在宅医療移行
頭蓋骨早期癒合症と気管の奇形
早産出生の巨大仙尾部奇形腫に対する当院での治療変遷
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胎児診断から始まる治療と支援,われわれ医療者ができること
近年注目され,その先進をいく神奈川県立こども医療センターのファミリーセンタードケア,アドバンス・ケア・プランニングの考え方と実践例を詳細に紹介。
院内で何が,どのような視点で話し合われているか,幅広い多職種医療者の「視点」を丁寧に取り込むカンファレンスの実際をまとめ,どのように家族へ説明し,治療・支援しているか,どのようにチーム医療で実践しているかを具体的に解説。国内屈指の高い胎児診断率とされる同センターの⻑年の症例集積データを示しつつ,単なるデータ集を超えて,家族への説明や治療に悩む医師・医療者にとって治療・支援の方向性を考える契機となる示唆に富む一冊。